2021年版中国ワイン市場におけるトップトレンド

冷たい風が吹き、中国のほとんどの地域に本格的な冬が訪れました。しかしながら今年は、ワイン市場においては、寒い過酷な冬は一足先に訪れていました。

新型コロナウイルスのパンデミックやその他の影響を受け、2020年上半期において売上が伸びたと報告したのは、中国にある13のワイン国営企業のうち2社のみにとどまり、ワインの輸入市場も同様にあまり芳しくない状況に終わりました。CFNA (the Wine and Spirits Importers and Exporters Branch of the China Chamber of Commerce of I/E of Foodstuffs, Native Produce and Animal Byproducts )が発行している2020年版ワイン・スピリッツの輸入に関する統計分析( Statistical Analysis of Wine and Spirits Imports)においては、1月から6月までの間に中国に輸入されたワインの売上量および売上高は、ともに30%以上もダウンしたと報告されています。下半期の数値の報告はまだ発表されていませんが、ワイン市場においてこの下降傾向はすでに確定しているとされています。

2010年から2019年までの10年間、中国におけるワイン輸入市場は14%の複合年間成長率を達成しまいした。この成長率と現在の悲惨な状態を比較し、ワイン輸入業界は「この厳しい状態がこの先も続くのだろうか?」と問わざる負えない雰囲気になっています。

中国語は弁証法的であると言えます。例えば、中国語において「危機」という言葉は「危険」という意味の言葉と「機会」という意味の言葉から成り立っており、どんな難しい状況においても新たな機会が訪れるという意味合いを含んでいます。困難な年の終わりに向かい、物事がどのように変化していくか評価したのち、未来を見据え、中国のワイン市場における2021年の新たな機会を探りながら、前向きな気持ちでいたいと思います。

消費支出が回復の見込み

現在の全般的な傾向を考えると、2021年がどのような年になるかについては、慎重ながらも楽観的な見方ができると思われます。

まず初めに、中国政府が国内におけるパンデミックを抑えるために行った厳しい措置により、中国は、他の国よりも早く景気回復へと向かいました。実際、中国の経済は2020年第3四半期にはほぼ通常に戻り、2021年の経済成長がすでに予想されています。恐らく世界経済において2021年にプラス成長が見込まれるのは、唯一中国だけだと思われます。中国には「本流が満ちれば支流も満ちる」ということわざがある通り、ワイン市場におけるこれからの経済成長にとって、中国経済の回復は、間違いなくいい知らせです。

しかしながら、会計年度における前半3四半期の間、消費支出は落ち込みました。国家統計局のデータによると、中国全土における国民の消費者購買は前年の同じ時期と比べて3.5%落ち込み、価格要因を差し引きすると、さらに6.6%落ち込んだという結果が出ています。

経済を通常レベルへ押し上げることが地方自治体の焦点となり、各自治体は個人消費を促すための新たな政策を作り出し、実施しました。2020年5月には、Shenzhen Liquor Associationは、地元市場においてワインやアルコール飲料への消費を促すために合計5000万元相当の割引券を地元住民に向けて発行しました。

ワクチンが解禁され、コロナウイルス感染症も2021年には終息するとみられており、出張による旅行や展示、商業活動、そしてその他の社会的経済活動も通常通り行われるようになると思われます。そうなれば、ワインに対する需要も出てくるでしょう。

市場パターンが一新

長年、オーストラリア、フランス、チリ、イタリア、スペインは、中国のワイン消費者が選ぶ主なワインのトップ5を占めてきました。そして、昨年の5月、勢いのあるオーストラリアは、ついに中国への主要ワイン輸出国であるフランスを追い抜きました。事実、ワイン・オーストラリアのデータでは、オーストラリア産のワインは6月までの時点で中国ワイン市場の37%を占めるまでになり、第二位となったフランスには12ポイントも差をつけ、揺るぎない地位を築き上げました。

しかしながら、現在、中国におけるオーストラリア産ワインの将来は不確かなものとなってしまいました。8月に中国商務部がオーストラリア産ワインの輸入に対してダンピングの疑いがあるとして調査を行い、11月にはダンピングを認定、212%の反ダンピング税が課されるようになりました。それ以降、市場において、中国商務部が他のヨーロッパ産ワインに対しても同じような調査を行うのではないかという噂が流れており、現在、2021年のワインの輸入市場は不確かな状況となっています。

自由貿易協定の恩恵を受けて、現在、チリやグルジアから輸入されるワインの人気が急速に高まっています。そのうち、チリ産のワインは中国消費者が選ぶ主なワイン第三位の地位を占めており、現在、その人気はうなぎ上りです。グルジアは小さな国ですが、中国ワイン市場において独自の地位を確立し、中国はグルジアのワイン輸出国トップ3に入っています。

さらに、中国のワイン輸入市場のマーケットシェアにおいては、いくつか忘れてはならない国があります。それは、アルゼンチン、南アフリカ、そしてイスラエルのような特別なワインを生産している地域で、どの国も地域も中国を可能性のある大きな市場として狙っています。中国市場に古くから進出している国と新たに進出しようとしている国の入れ替えを経て、2021年は中国のワイン輸入市場における勢力の再編がありそうです。

国内ワイナリーの主張

Credit: Silver Heights Vineyard

国内のワイナリーは、特に中国北西部において、最近10、20年の間に少しずつ登場してきました。ワイナリーの経営者は自分たちのワインに情熱を持ち、そしてワイン造りに信念を持っています。貧弱な自然条件と厳しい生活環境にもかかわらず、この地に住むことを選択し、ブドウ栽培こそが貧困からの脱出方法だと考えています。そして、多くの地方自治体がワイナリーに対して支援を行っています。例えば、寧夏回族自治区では、地元のブドウ栽培に対して技術的なトレーニングや苗木の輸入、歩道整備、水関連そして電気関連のインフラプロジェクトの支援が地方自治体により行われています。

何年にもおよぶ丹精込めた栽培や細やかな作業が功を奏し、国内の小さなワイナリーの中にはワイン市場において認知され始めたり、国際的な賞を受賞したりするものもでてきました。しかしながら、このような小さな国内のワイナリーは生産力や販売力が追い付かず、さらに、ワインは未だに輸入するものであるという見方をする消費者も多く、高い評価を受けているにもかかわらず、売り上げが伸び悩んでいるのも事実です。

現在、中国人消費者は国内製品に新たな誇りと感心を持ち、幅広い文化的市場において国産品への新たな要求が生まれてきています。人々の中での文化のさらなる普及は自分たちの文化的独自性への誇りに繋がり、人々は、中国の豊かな文化と伝統を認識し、さらに探求しているのです。多くのブランドがこの現象を最大限に利用し、ニーズに応じた商品開発や販売キャンペーンを行い、市場において大きな成功を納めています。

あるワインブランドでは、パッケージやプロモーションイベントに中国の文化的要素を取り入れるなどして、このトレンドをマーケティングに取り入れています。この12月、フランスのシャトー・ムートン・ロスチャイルドは中国人アーティスト徐氷(シュー・ビン)氏による新たな2018年ヴィンテージのラベルを発表しました。この新しいラベルには、中国の伝統的な書体からコンセプトを得、ワイナリーの名前を表現しました。中国人消費者にとっては見慣れたものではありましたが、中国市場での反応は大きなものでした。

中国人消費者が国産ブランドを支持して、国産ブランドが生産力を増強し、より品質の優れたワインやさらに多くの選択肢を提供することで、国産ブランドのワイナリーは、市場において確実にシェアを拡大する機会が得られるとみています。

インターネットショッピングの急速な発展

世界的に見て、中国は現在、eコマース市場においてトップを走っています。eコマース市場は競争が非常に激しいのと同時に、多くの企業にとって急速な成長の機会でもあります。ワイン市場では、eコマースは急速に成長してはいるのですが、市場における浸透率はたった10%ほどにとどまっているというデータがあります。

2020年は世界的なパンデミックと共に始まり、消費者がオンラインショッピングへと移行するのと同じように多くの企業もオンラインへと移行しました。パンデミックの初めごろに行政によって行われた厳しい規制により、中国における何億人もの消費者がオンライン上での買い物を余儀なくされ、eコマース市場がブームとなりました。そして、2020年を通して、多くの消費者がオンラインショッピングに慣れ、このトレンドがeコマースにおけるワイン販売を加速、成長させることは間違いありません。

eコマースにおけるワイン販売の当初からある主な問題は、オンライン上では消費者が購入前に気づきにくいことから、比較的容易に偽造品や低水準のワインが販売されているということでした。しかしながら、中国政府がオンラインショッピング環境の改善のためにさらに厳しい措置を始め、この状況は改善される見込みです。

2020年12月、最高人民法院は、食品安全において、オンライン小売業者は関係する全ての責任を負わなくてはならない、という判決(The Supreme People’s Court Legal Resolution Regarding the Hearing of the Civil Case Against Problems in Food Safety (1))を出しました。この判決以前も、Li Jianqi(一か月の売上14億元達成)やLuo Yonghao(一か月の売上4億元達成)といったネットセレブが不正行為や偽造品販売などで処罰されています。

このような処罰は大体が見せしめのために行われたのですが、政府のオンライン販売における不正行為の取り締まりを強化し続けています。オンラインショッピングにおいて消費者の権利を守るための安全策がさらに取られることになれば、eコマース市場における小売業者の透明性が増し、オンライン上でのワイン販売が新たな段階へと進むことは容易に想像されます。

末端市場への浸透

近年、中国の第二、第三層の都市に住む人たちが多くのブランドの注目の的となってきています。eコマースの発展とロジスティックスの改善により、市場にどのような製品が出回っているのかがより分かりやすくなってきました。第二、第三層の都市に住む消費者にとって日々のストレスは少なく、住宅費も安く、収入は十分にあり、嗜好品に費やすお金も時間も十分にあります。

このような都市に住む人たちは、ショッピングにおける様々な流通ルートを最大限に活用することで、世の中をよく理解し、ワインを始めモダンな製品や流行の商品を積極的に楽しむようになりました。ワインを楽しむことはまだ十分に習慣として確立していないのですが、ワインは優雅で上品でおしゃれなライフスタイルを表すものだと考えられています。実際、日増しに豊かになっていくこの層の消費者にとって、ワインはとても魅力的なものになってきています。

中国の主要なeコマースプラットフォームのひとつであるTmallのデータによると、第二、第三層の都市に住む消費者のワインの購買力は無視できないほどになってきており、一回の取引における購入量はすでに第一層の都市を追い越しています。

このような爆発的な成長は、多くのワイン販売業者が何年にも渡りこれらの都市において努力をしてきた賜物であることは確かです。何年もの間、中小規模の小売店はワインテイスティングイベントやワインについて学んでもらうための活動を行ってきました。ワイン・オーストラリアが毎年行うプロモーションツアーでは、テイスティングイベントや中国全土にワインについての情報を拡散するための活動を行っています。このようなイベントの多くは第二、第三層都市で行われ、近年の売上を見る限り、これらの都市で行ってきた努力が報われるときがついにやってきたと言えます。

若い世代へと引き継がれる購買力

他の成熟した市場と比べて、中国のワイン消費者の年齢層の平均はとても若いです。CBNdataによると、ワイン販売において主に1990~1999年生まれの消費者一人当たりの消費額の伸び率がどの世代よりも高く、この世代は2020年において、新たなワイン消費者の数でもトップでした。また、別の国内のワインに関係する組織であるTOEwine news sourceによると、主催する見本市の参加者の77%が39歳以下だと言います。

このような若い世代の勢いのある購買力は、ワイン市場全体に影響を及ぼしています。

2020年3月、Tmallはアルコールやその他の飲料販売のためにプロモーションイベントを開催しました。たった2日間のうちにボトル平均87元のワインが120,000ボトル売れ、特にカベルネ・ソーヴィニョンやよく知られた商品ラインの白ワインが人気があったそうです。

Tmallにおけるワイン販売を見ると、さらに興味深い統計結果がありました。Tmallのプラットフォームにおいて、少量のワイン(187 mL)がひと月で2,000ボトルも売れる一方で、通常サイズのワイン(750 mL)はひと月で200ボトルほどしか売れないのです。

この統計結果から若い世代の消費者行動が明らかになりました。若い世代の多くがワインを楽しみ始めたばかりで、しかも予算も限られているのです。このようなワイン初心者には、カベルネ・ソーヴィニョンや白ワインは飲みやすいと言えます。主にビジネスや大勢集まる場でワインを楽しむ1970~1980年代生まれと比べて、若い世代の消費者は一人で、もしくは数人のグループでワインを楽しむ傾向にあります。そのため、少量のワインはコルクや蓋の心配をせず、気軽に飲めるというわけです。有望なブランドの多くはこのような若い世代のニーズに対応した製品を開発しています。

さらに、SNSと共に育った若い世代が主要な消費者層となってきているので、販売業者がこのような手段を使って若い世代の消費者とどのようにコミュニケーションをとるのかも重要になってきます。ワインは「古風な」商品のように思われがちですが、多くのブランドが若い世代の消費者との繋がりを求めて、インフルエンサーと契約をしたり、ライブストリーミングイベントを開催したり、ソーシャルメディアにおいてマーケティングキャンペーンを展開したり、流行りのブランドとタイアップをしたり、パッケージを一新したり、様々な工夫を凝らしています。購買力と影響力を増し、若い世代はこれからもワイン市場にさらなる改革をもたらすでしょう。

2020年は、ワイン市場にとって非常に厳しい年でしたが、白酒市場における多くの企業の株価が過去最高を記録し、一流ブランドである茅台酒は、すでに日本のトヨタやアメリカのコカ・コーラを追い抜きました。現在、ワイン市場の規模が1000億元である一方、白酒市場の規模は5000億元に達しています。市場規模を考えると、ワイン市場には発展の余地があります。中国が世界市場に開かれ、中国人消費者の健康的なライフスタイルやワイン文化に関心がマイしている今、これからの中国ワイン市場には希望があります。

今、ワイン市場に従事している人たちにとって厳しい冬が訪れているとするなら、もしかしたら春はすぐそこかもしれませんよ?

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