2020年の中国小売市場における流行語は「コミュニティ・グループ・バイ(地域的な集団で購入すること)」でした。その名の通り、コミュニティ・グループ・バイは、実際のオフラインのコミュニティにおいて行われ、単一世帯や商店経営者が中心となり購入した商品の分配を行います。コミュニティのリーダーはWeChatのグループチャットやアプレット、モバイルアプリを使用してコミュニティメンバーからの注文を集めたり、大量購入や配送の手配をしたりします。
2020年の始めに、パンデミックにより中国のほとんどの地域がロックダウンになったことを受けて、コミュニティ・グループ・バイが流行り、ついには日用必需品や生鮮食品を購入するための主要手段になりました。そして2020年後半には、中国の主なeコマースは次々とコミュニティ・グループ・バイに特化したプラットフォームを始めました。
ワインは生鮮食品消費者市場と関係が深いことから、ワイン市場もすぐにこの流れに乗ることになりました。多くの巨大コミュニティ・グループ・バイのプラットフォームでワインが販売されており、2020年3月に、国内ワイン産業を牽引する長城ワインは、小売り販売ネットワークに参入するためのコミュニティパートナーを採用する計画を発表しました。これは、消費者との結びつきを強め、ネットワーク運営の改善そして安全性を確かなものにするためです。
商品の特性から、ワインのコミュニティ・グループ・バイには、いくつか特筆すべきことがあります。
高い順応性
間違いなく、ワインはコミュニティ・グループ・バイのプラットフォームで販売するには非常に適した商品です。生鮮食品市場と同様に、ワイン消費者はあまりブランド信仰は高くなく、しかし使用するプラットフォームへの依存は高く、比較的頻繁に購入する傾向があります。
コミュニティ・グループ・バイの便利さから、衝動買いに繋がり、購入を決めるまでの時間を最小限にとどまり、結果、効果的に売り上げを伸ばすことができました
ワインの種類は非常に多く、大部分の中国人消費者は、未だに特定のブランドやワインを決めてワインを購入する習慣がないので、友人や家族のおすすめや信頼できるプラットフォームや販売店のプロモーションを頼りにしています。しかし、ワインは飲みやすい上にアルコール度数も低いので、一般的に習慣として飲むようになる傾向が高く、その結果、比較的リピートして購入されます。
2020年は、ワイン販売において伝統的に大切な行事が次々にキャンセルされてしまい、ロックダウンの期間、ワイン販売業者はパッケージ販売やワインと料理をペアリングして配送することで消費者にアプローチしてきました。コミュニティ・グループ・バイの便利さから、衝動買いに繋がり、購入を決めるまでの時間を最小限にとどまり、結果、効果的に売り上げを伸ばすことができました。
急拡大と細分化、そして顧客獲得コストの減少
近年、多くの販売業者はeコマース運営の難しさを痛感しています。オンラインプラットフォームは非常に幅広く、多くの販売業者は競争の激しさに直面しています。さらに、ウェブサイトのアクセス数を増やすためのコストも日に日に増しています。
アリババでの顧客獲得コストを見てみると、2017年の新規顧客獲得は一人当たり279元だったのに対し、2019年は536元で、92%のコスト増となっています。Jingdongはこれを上回るコスト増となっており、2016年の新規顧客獲得は一人当たり142元だったのに対し、2019年には758元にまで跳ね上がっています。
コミュニティ・グループ・バイによって、商品を消費者へ直接届けることで、運営コストを効率よく分散させることができます
現在では、プライベートトラフィックへの信頼が増し、さらにコミュニティ・グループ・バイが拡大すると同時に細分化されて、多くのオンラインプラットフォームにおける顧客獲得コストが二桁まで下がりました。その一方で、コミュニティ・グループ・バイによって、商品を消費者へ直接届けることで、運営コストを効率よく分散させることができます。先見の明のあるワイン販売業者は、昨年のうちにコミュニティ・グループ・バイに上手く手を広げ、すでに業績を上げています。
効率的なコミュニケーションを通してブランドを広める
ワインは飲みやすさだけではなく、選択肢が多いことから消費者に選ばれています。様々なブドウ品種、生産地域、伝統、ヴィンテージ、発酵技術など、全てがワインの楽しみ方に影響するので、何を選ぶかは、一人一人消費者ごとに異なります。
コミュニティ・グループ・バイにおいては、コミュニティグループのリーダーが消費者の要求に対して反応したり応えたり、カスタマーサービスの代表者の役割を果たします。さらに、コミュニティ・グループ・バイで購入する商品の多くが日常必需品であることから、リーダーはコミュニティのメンバーと親しくなり、そして信頼もされ、非常に効率良くデジタル化されたプロモーションの内容を拡散する役目も果たしてくれます。
コミュニティリーダーを通して、ワインブランドはワインの価値、品質、ワインの知識をコミュニティに広め、消費者は購入するワインについてよく理解することができるようになります
コミュニティリーダーを通して、ワインブランドはワインの価値、品質、ワインの知識をコミュニティに広め、消費者は購入するワインについてよく理解することができるようになり、こうしたことが消費者の購買習慣を作り、顧客ロイヤルティを生み出すことができます。
コミュニティ・グループ・バイによるワイン販売には多くの利点があることは確かなのですが、まだ始まったばかりの新しいビジネスモデルにすぎません。
つまり、ワイン販売業者は多くの困難にも直面しています。
価格に対して非常に敏感
コミュニティ・グループ・バイに参加している人たちは、商品価格に非常に敏感です。現在の市場では、Jingdongの Jingxi、Meituanの Meituan Select、PinduoduoのBuy More FoodやDiDiのChengxin Selectといったオンラインプラットフォームにおいて、19.90~29.90元ほどの価格帯のワインは溢れるほどたくさんあります。一本当たり9.90元というワインもあるのですが、ここまで安いと消費者は品質を疑うこともあるようです。さらに、消費者はいくつもの低価格帯のプラットフォームを行ったり来たりする傾向があり、ワインを安く売るだけでは安定した顧客を作ることは難しいようです。
増していく価格の複雑さ
コミュニティ・グループ・バイの急速な成長は、すでに細分化されている小売り市場に大きな打撃を与えました。現在、マーケットシェアの獲得のために、大手eコマースは、コミュニティ・グループ・バイに対して100億元単位の援助を行っており、消費者価格を原価にまで下げていることもあるようです。
このような援助は、従来のブランドの価格制度を破壊し、市場を混乱させることに繋がっています。このようなことから、市場においてコミュニティ・グループ・バイプラットフォームを拒否する動きもみられていますが、コミュニティ・グループ・バイの成長を見る限り、このような抵抗はあまり大きな影響を与えることは出来なさそうです。コミュニティ・グループ・バイが拡大し続ける限り、販売業者にとって、小売りネットワークにおける価格管理は間違いなく複雑さを増していくものと見られています。
プラットフォームによるエンドユーザーのリソースとデータの独占
圧倒的な注文量を誇る中国小売市場は、多くの販売業者にとって魅力的です。膨大な人口を背景とした売り上げの増加が見込まれ、中国市場は驚くべき成長の可能性を秘めています。当初、大手プラットフォームは、市場シェアの拡大を目指してコミュニティ・グループ・バイを支援しました。しかし、その結果として生まれた大手プラットフォームによる市場の独占は懸念事項となっています。
さらに心配なのは、大手プラットフォームが市場の独占状態を維持するためにビッグデータを使用することです。大手プラットフォームは、度々、新規顧客に対して驚くほどの低価格で商品を販売する一方で、既存の顧客に対してはそれと比べて高値での販売を行っています。このような行為が長期的に見てどのような結果をもたらすかはまだ分かっていません。
コミュニティ・グループ・バイはまだ始まったばかりの未知のビジネスモデルで、公的規制機関は目を光らせています
コミュニティ・グループ・バイはまだ始まったばかりの未知のビジネスモデルで、公的規制機関は目を光らせています。昨年12月、人民日報は、中国の大手eコマースは積極的に社会的な責任を果たすべきだという連載を行いました。この連載により、最近の市場の発展の健全性に関する議論が起こり、市場が秩序ある状態に戻ってほしいという願いをこめて、競争への効果的な規制の動きを求める声があがりました。
ここでご紹介したように、中国の小売市場は目まぐるしい勢いで変化をしています。最近の情勢や中国ワイン市場の今後の見通しについて知りたい方は、ぜひ、ご連絡ください。