インフルエンサーが現在の中国ワイン市場をどのように変えるのか(ケーススタディー)

インフルエンサーが現在の中国ワイン市場をどのように変えるのか(ケーススタディー)

インターネットが現代社会に与える影響が大きくなるにつれて、ワインブロガーはより多くの消費者に向けて情報を発信するための革新的な方法を見つけました。そして、その意見が今では市場において重要な役割を担うという成功を納めています。ワインブロガーは市場における第一人者として、新しいアイデアや販売方法をいち早く試みて、インターネット上でコンテンツを配信することで世界中の世論に影響を与えています。ブロガーの影響力が増すにつれて、このインターネット時代において造られた言葉である「インフルエンサー」は、中国でも徐々に知られるようになりました。

一般的に、インフルエンサーは様々なワインの評価をし、自身の持っているいくつものプラットフォーム上で意見を述べることによって、視聴者に影響を与えます。インフルエンサーの多くは、ワインに関してその影響力の基礎になるような教育的なバックグラウンドなど、ある程度の専門的な知識を有しています。そして、オンライン上でのコミュニケーションを通して、視聴者との繋がりを深めます。

インフルエンサーになるためには、個性やカリスマ性などに加えて、どのように情報発信を行うかについても十分に把握しておく必要があります。視聴者に対して、一度でも自身の利益のために行っているという印象を与えてしまえば、インフルエンサーは「視聴者との会話のコントロールを失くしてしまう」可能性すらあります。コンテンツの管理ができなくなったために、視聴者にとって、単なる商品の広報担当者のようになってしまったブロガーもいます。自身の利益と名声のために物を売るようになってしまったピエロのような存在です。

中国のワイン市場において、最も重要な役割を果たしているインフルエンサーとは、一体、どんな人なのでしょうか?

1. Lady Penguin:中国トップのワインインフルエンサー

Lady PenguinはWang Shenghan氏のペンネームです。ブラウン大学で歴史と経済を専攻し、その後、フランスにあるル・コルドン・ブルー専門学校(Le Cordon Bleu culinary institute)でワイン・マネージメントにおいて学位を取得しています。

Lady Penguinブランドの始まりから成功への道のり

Lady Penguinは2013年にワインに関するメディア配信を始めました。そして、2014年には自らのブランドを立ち上げ、Penguin Red Wine Dailyビデオシリーズを始めるにあたり、公式アカウントも開設しました。2017年にはPenguin Red Wine Dailyシリーズを基に、Himalaya TVと一年契約を結び、Lady Penguin Wine Dictionaryというオーディオコンテンツの作成も行いました。

ショートビデオやオーディオコンテンツの内容はどれも興味深く新鮮で本格的で、Lady Penguinは急速にフォロワーを増やしていきました。現在、Weiboにおいて130万人、Douyin(中国市場におけるTikTokのようなアプリ)において340万人のフォロワーがおり、Penguin Red Wine Dailyの動画の視聴回数は2億万回を突破しています。Lady Penguinは現在、ワイン市場において最も人気のあるインフルエンサーだと言えるのではないでしょうか。

Lady Penguinは主にワイン初心者に向けてコンテンツを作成

ワインを飲み始めてまだ間もない人達に向けて敷居を下げるため、そして消費者により分かりやすくワイン用語を提示するために、Lady Penguinは誰にでもわかる言葉遣いでワインについて話すようにしています。ワインについて語るときに使われるような専門用語(土壌、気候のタイプやワインの保管のための最適な湿度など)を避け、ワインラベルの読み方やボトルの開け方など、一般の消費者にとってより実用的な内容のコンテンツを作るように心がけています。

ワインに関して幅広い知識があるにも関わらず、Lady Penguinはオンライン上ではどこにでもいるような若い女性として、若い世代が使うような言葉で話すことで(そして若い世代が好むような形式を用いて)、自身の体験や意見などをより多くの消費者に理解してもらえるよう努めています。

中国ワイン市場における信頼できるメンバーとして更に高まる責任を引き受けて

かつて、Lady Penguinは自身のブランドを始めた目的は「中国で最も優れたワインの世界への入門コンテンツ」を作るためだったが、のちに「若い世代のワイン消費者に向けて、敷居を低くする」という目標に切り替えたのだと話したことがありました。この2つの目標を達成した今、Lady Penguinはさらに大きな目標を掲げています。それは今日のワイン市場における弊害に取り組むことです。

中国では、ワインの原価は十分明確にはなっておらず、多くの海外のワイナリーは本当の原価や価値を極秘情報のように扱っているため、消費者はワインの価格が適正なのかどうか判断することができません。さらに、オンラインでの購入か実店舗での購入かに関わらず、多くの場合、法外な価格設定が行われています。原価8ドルほどのワインが、最終的に中国の消費者のもとに辿り着くときには価格が跳ね上がり、100ドルにもなっていることがあるのです。

消費者は、ワインをどのように選ぶべきなのか十分な知識も経験もない場合が多いので、それぞれのワインの長所や短所などを見極めることができず、また、特定の場面や個人個人の好みに合わせて適切なワインを選ぶことができません。ワインの種類やラベル、生産地域など、その他さまざまな要素に基づいてワインの特徴を知るためには、体系的にワインについて学ぶ必要があるからです。結果として、あまり知識も経験もない消費者はなんとなくワインを買ったり、より相応しいワインがあることを知らずに、行き当たりばったりにワインを選んだりしてしまうのです。

月間「Penguin Club」ワインリスト

このような問題を解決する方策として、Lady Penguinはさらなる努力をし、ソーシャルeコマースプラットフォームでワインを販売することを考えました。そこでは、消費者はLady Penguinの評価やおすすめを見ながら買い物をすることができます。Lady Penguinは2種類のワインリストを用意し、定額購入サービスを提供していています。このサービスは「Penguin 200」と「Penguin2000」の2種類で、フォロワーにはLady Penguinが厳選したワインが毎月送られるようになっています。

この定期購入サービスの最大の目的は、どのようなワインを購入するか悩むのに費やしていた時間を減らし、それと同時に法外な値段の心配をなくすことにあります。さらに、このサービスへの申し込みをすると、Lady Penguinがワインについて公開している膨大なオンラインコンテンツにアクセスすることができるようになります。これが、ファンやフォロワーを維持することに一役買っているのです。

「Penguin 200」はLady Penguinの当初からのファンや、まだ経験の少ない、赤ワインに挑戦したいと思っている新しい人達に向けて作られたものです。メンバーは、毎月200元(約30ドル)を支払い、Lady Penguinが厳選したワイン一本を受け取ります。さらに、ワインについて学び、ワインを自身で選ぶことができるようになるために、メンバー限定のオーディオコンテンツや他の特典にアクセスすることができます。更に、Lady Penguinのメディアプラットフォームにおいてはメンバー限定価格を利用することができます。この定期購入は6ヵ月ごとの更新制となっています。

「Penguin 2000」は「Penguin 200」のアップグレード版のサービスで、会員は二カ月毎に最低でも平均2000元(約300ドル)以上のワインを2本受け取ることができます。「Penguin 2000」のメンバーは、オフラインイベントやVIPイベントにも招待されます。Lady Penguinのファンの多くは若い世代の赤ワイン好きで、まだワイン経験の浅い人達ですが、ワインへの購買力と知識欲はこれからきっと増大していくと思われます。そして「Penguin 2000」にアップグレードし、さらにワインについて学び、高価なワインもわかるようになるでしょう。Lady Penguinはこの2種類のサービスを作ることで、フォロワーをどのくらいの金額をワインに費やせるか、または費やしたいかで分けました。そのことが結果として、それぞれの会員から最大限の利益を得ることに繋がりました。

常にサービスを更新することで、Lady Penguinはフォロワーとの繋がりを維持

Penguinグループは高品質なワインを保証し、消費者との信頼関係を築き、そして消費者はLady Penguinの知識や提案を常に信用しています。フォロワーの味の好みやライフスタイルを形作ってきたLady Penguinは、現在、中国において赤ワインと同義語ともいえる存在となりました。定期購入の会員は、送られてくるワイン以外にもワインを購入することが多いので、Lady Penguinが関わっているワインの売上、そして再購入率はますます伸びています。

2019年7月、Lady Penguinはオンラインのワインコース「WinePro」を開始し、初回の3ヵ月間で1万人以上の受講数を達成しました。オンラインでの活動を続ける一方で、Lady Penguinは、毎月、12都市においてワインイベントを開催しています。実世界におけるワインコミュニティを強化することの重要性も認識しているのです。

 2. Zhengshan Niurouge(ビーフ・ブラザー):100万ボトルを売り上げたイベントからアカウント停止まで

「元締めに出向いて、ワインを値切り倒す」

このニックネームは牛肉製品に由来するのですが、Zhengshan Niurouge(Chen Qi)はワインやスニーカー、嗜好品など、様々な製品のプロモーションに関わっています。

2019年の「618」ショッピングホリデーにおけるインターネット販売のプロモーションイベントでは、Niurougeは、「全てディスカウント」という方針のもと、100万ボトルのワイン、そして10万ケースのビールを売り上げたと発表しています。ワイン6本で99元(15ドル)という業界最安値で、一カ月半で卸業者のストック、ワイン40万本が完売しました。

Niurougeは「全ては消費者のため」と主張

「元締めに出向いて、ワインを値切り倒す」は直接ワイン業界の法外な価格設定に対して抗議し、視聴者を楽しませているNiurougeのキャッチフレーズとなり、Douyinでの大人気動画において度々使用されています。Niurougeはこの方法で、消費者の利益のために戦う者としてのイメージを確立しました。

Zhengshan FoodsのCEO、Li Rongxin氏もまた、以前メディアに向けて「私たちの提示している価格は、ワイン産業へ損害を与えることはなく、むしろ利益をもたらしています。Zhengshanは、消費者に信頼される企業に成長することを目標としています。自分たちが扱っている製品の原価やサプライチェーンを明確にすることで、この目標を達成したいと思っています」と話しました。Chen Qi氏の「一般消費者に向けてワインの原価を下げ、より多くの人にワインを楽しんでもらいたい」という考えは、オンラインにおける大勢のフォロワーの間では「ワイン市場における平等を求める声」と呼ばれています。

大幅な割引に隠された本当の原価

昨年のインタビューにおいて、Chen Qi氏は、「ワイン市場における平等」の証拠として、自身のサプライチェーンの詳細を、自信をもって明らかにしました。

「私たちが販売したあるワインを例に挙げれば、一度に輸送用コンテナ50個分、つまり90万ボトルのワインを注文しましたが、その価格はワイン1本につき0.88ユーロ(1.03ドル)になります。その後、関税と消費税が合わせて46.2%、輸送費がワイン1本につき約0.07ユーロ(0.08ドル)がかかり、一本当たりの総費用は1.5ユーロ(1.76ドル)となります。ヨーロッパから直接購入する場合と比べて0.5ユーロ(0.59ドル)お得になります。」

このスペイン産ワインが1本あたり1ドルちょっとで購入することができるという事実と90万本ものワインを一度に輸入できるということを考えると、このワインは非常に安価で品質があまり良くなく、機械的に生産できるワインだということがわかります。専門家でなくとも品質に欠けるワインだということがわかり、Taobaoユーザーの多くがたちまちこの製品に対するレビューに低評価をつけました。

Niurougeの一件がインフルエンサーへの忠告となり、議論が起こる

2020年4月、その当時600万人ものフォロワーを誇っていた「Niurouge Selects」というDouyinアカウントが停止され、過去の動画コンテンツが全て削除されました。アカウントが停止された理由は「製品の品質に問題があり、多くの苦情が寄せられた」ためだとされています。アカウント停止に続いて、Niurouge本人に関する様々な情報が発覚し、多くのインターネットユーザーからは、このかつてのインターネットセレブリティを「犯罪者である」「誤情報を拡散した」「偽造品を販売した」と批判する声が高まっています。

現在のインターネット時代において、インフルエンサーはほんの数分の動画で何千人もの消費者の意見を左右することができます。しかし、この影響力はもろ刃の剣で、消費者の信用を失うのも一瞬なのです。Niurougeが身をもって体験したように、消費者を欺いて劣悪な商品を「値下げ」と称して販売することはできますが、いったん失ってしまった信用を取り戻すことは二度とできません。

3. 地元当局がライブストリーミングに参加:2,280ボトルのワインが3時間で完売

今年の年初めに、現在最も注目されているライブストリーミングでのプロモーションイベントを利用し、より多くの人に地域の地元の特産を知ってもらおうと、中国国内の多くの地元当局関係者がインフルエンサーとタイアップしました。

ユーモアを利用して視聴者を獲得、そして販売へ

甘粛省高台県の職員Qiang Yousuo氏は、Taobaoを使って地元農産物のプロモーションを行い、一気にライブストリーミングで有名になりました。ユーモア溢れる10分間のストリーミングを通して、Qiang氏は多くのインターネット利用者に向けてキリアンワイン、トマト・ペースト、唐辛子など高台県の様々な農産物を紹介しました。この愉快な配信は40万人以上の視聴者を獲得しました。次々と送られる「いいね!」やひっきりなしの売上は中国中の地方当局にとってもいい刺激となり、ライブストリーミングプロモーションイベントの黄金期の幕開けとなりました。

地元ワインを世界中に知ってもらうために

新疆ウイグル自治区グルジャ市の職員は、ライブ配信中に次のように述べました。「グルジャ市のワインブランドを知ってもらい、もっと大きな市場へ参入するきっかけとなるように、このライブストリーミングを利用して地元のワイン産業の手助けをしたいと思っています。そして、中国中の皆さんには、ぜひ、新疆ウイグル自治区に遊びに来て、地元ワインも含めてこの地域のことをもっと知ってもらいたいと思っています。」

新疆ウイグル自治区ホショード県の職員、Ha Re氏もTaobaoのライブストリーミング機能を利用し、地元ワイン、チリソース、トマトソース、プルーンペーストなどの特産物を熱心に宣伝しました。Ha氏のライブストリームは、始まりから終わりまで常に多くの視聴者が集まり、一部の視聴者のコメントを見るだけでも、どれほどこの方法が効果的だったのかが分かります。「この人、本当に上手に売るよね!」「もっとこの職員さんの話が聞きたい!」「今、ワインのフラッシュセールやってる」などのコメントが見られました。更にデータを見てみると、Ha氏は3時間のライブストリーミングの間に、59万1000件の「いいね」を獲得し、2,280件、103,000元(14,800ドル)の商取引を達成しました。

ライブストリーミング:これからのワインプロモーション

オンライン上で行われるライブストリーミングのセールスイベントは、インターネット利用販売にとって画期的な方法となりました。地元特産品に関する情報を多くの視聴者に効率的に伝えることはなかなか難しく、ユニークで品質が良いもかかわらず、あまり知られていないままになっている品物は数多く存在します。しかし、ライブストリーミングプロモーションイベントを利用すれば、このような地元の特産品を紹介することも可能になり、インターネット上の視聴者は、単純で簡単な方法で商品について知ることができ、気に入れば購入することもできるのです。

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Vicky

執筆者 ビッキー

ヴィッキーさんは、中国山東省にある小さな沿岸の都市、煙台で生まれ育ちました。煙台は、中国では有名なワインの生産地です。ヴィッキーさんは、修士課程在学中に世界のワイン産業における市場戦略について研究をしているうちに、大のワイン好きになりました。旅行と美味しいものを食べるのが大好きで、夢は各地の最高のワインを味わいながら世界中を旅行することだそうです。

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